Kind Regards。

英国ネタをこつこつ載せてまいります。

2014年10月

前回の続きです。

その住民投票というのは「mayoral referendum」。
カタカナ読みするなら、メイヨラル・レファレンダム。

これは何かというと、
「自分たちの街で、"直接選挙で選ぶ市長"(directly elected mayor)が欲しいかどうかを問う住民投票」。

なんかややこしいですが、要は、新しく「市長制」を導入したいかを住民に問うわけです。
市議会とは別に、強い行政権限を持った市長を、市民が直接選ぶことで自分たちの声がより反映されやす
くなりますし、中央政府とのパイプができれば地方の発言力はアップします。少なくとも理屈的には。

前回書いたとおり、権限委譲(devolution)の大きなトレンドは、労働党のブレア政権が作り出したもの。
保守党(当時は野党)を率いていたキャメロンも、あえてこのトレンドに反対はせず、
「自分たちが政権を取り返した暁には、ちゃんと"mayoral referendum" を実施することを約束しましょう」と
公約し、2010年の総選挙に臨んだのです。

晴れて首相となったキャメロンは約束どおり、この住民投票を大都市で実施するように指示。
さらに、もしも各都市が「Yes」にvoteし、市長制度を受け入れるならば、政府が握っている権限や財源を
移していくとも発言していました。
つまり、市長という独立した責任者を新たに置いて、市のガバナンスを今よりも強化するのであれば、
今より大きい裁量を与えてあげてもいいよ、
という理屈です。
悪い話ではないと思いますよね。


気になる投票結果はというと・・・・・

ほとんどの都市で「No」。

「独裁者になるかもしれない」「官僚的になる」「コストがかかる」などと理由が上がってましたが、元々
イギリス人には変化を嫌う保守的なところがありますので、サプライズというわけでもありません。
投票率(turnout)も20~30%と大したことはなかったですから、「どうせ同じだろう」という無関心もあった
のでしょう。

よって、イングランドは都市によって市長がいたり、いなかったりします。
あの香川選手のいたマンUの町、マンチェスター(Manchester)。ここは投票で否決。
ビートルズや「かみつきスアレス」(今はバルセロナに移籍)で有名な?リバプール(Liverpool)。
ここは例外的に住民投票をスキップして、すぐに市長を置く手続きをとりました。


スコットランド自治権拡大の話から、ちょっとした飛び火が今イギリスの政治に起こっているのは
以前にもご紹介したとおりです。⇒ イギリスの政治のしくみ(6) 「スコットランド議会」

イングランドのMPたちが不満を持ち始めて、「English votes for English laws」を叫び始めたか
と思えば、ロンドンをはじめとした都市の議会が、「自分たちで集めた税金は、自分たちでもっと自由
に使いたい!」と言ってみたり。

詳しくはまた別の記事で書ければと思うのですが、イギリスという国は、ロンドンに人もお金も集中
しすぎています。確かにロンドンで徴収された税金の大部分が、まずUK政府のサイフに入り、そこから
使い道が決められて配分されていくので、ロンドン市長として主張したくなる気持ちはわかるような気が
します。
ただし、2年前に住民投票(referendum)という形でめぐってきたチャンスを自ら否決したような都市
などは、今回あまり声を大にして権利の主張ばかりできないんじゃないでしょうか。


日本を振り返ってみても、東京から地方への税収配分は増えている一方で、政府から東京&地方へ
の財源移譲は特に進めていません。
イギリスも、財政赤字を絞りつつ、同時に経済成長も実現するという微妙な舵取りが求められる状況
は日本と同じですから、選挙を意識した調整はあり得るにしても、気前よくtax powerを地方に渡すわけ
にはいかないでしょう。
地方分権の流れに反すると言う人もいますが、今はタイミングが悪い気がします。

■pledge(公約、公約する)、manifesto(マニフェスト)

この前新聞を読んでいると、「住むコストだけを考えるなら、ロンドンは世界で最も高い都市
(most expensive city)」だという内容の記事がありました。
(2位以下は、香港、NY、パリ、東京の順)

ロンドンの物件には、「さあ住むぞ!」という「実需」が多いだけでなく、売買益をねらった「投機」
のお金も海外からたくさん入ってきますから、全体の相場は釣り上がります。
私は別に良いところに住んでいるわけではありませんが、それでも大家さんが毎年値上げを要求
してくるようになったので他人事ではありません・・。
ポンド円が上がってきた今、家賃を円に換算して考えるとやっぱり高いですし、ここしばらくの住宅
価格高騰のニュースを聞いていると、感覚的に納得できるという感じですかね。

ちなみに、食べ物とか服とか、もっと幅広い物価で比べた調査では、シンガポールが東京を抜いて、
トップに躍り出たとか。
まあ、このランキングで抜かれても全く悔しくはありません。


そんなロンドンの市長を務めるのは「ボリス・ジョンソン」(Boris Johnson)。
いつ見ても髪がクシャクシャなのは、ほとんどトレードマークのようになっている個性派政治家で、
来年5月の総選挙には保守党候補としての参加を表明しています。
例えるならば、首相の座をねらう東京都知事といったイメージでしょうか。

もし当選したとしても、今の任期が満了するまでは、市長もやりつつ議員もやると公言しています。
遡ると王家の血も引いているという話で、イギリス人には割と人気が高く、これからも注目しておく
べきkey playerの一人であるのは間違いありません。


ちょっと意外なのは、このボリス・ジョンソンが就いているロンドン市長(Mayor of London)の
ポジション、2000年にできたばかりというところでしょうか。

日本の場合、ある市に住んでいたら、市議会議員を選挙で選んで、市長も選挙で選びます。
その市長が行政のトップとなり、市議会はこれをサポートしつつ、監視もするというシステムです。
これに対して、イングランドの「市」の仕組みはちょっと変わっていて、市議会(council)だけで
「議会&行政」の役割を果たしており、あえて市長という独立したポジションを置いていませんでした。

2000年前後のブレア政権(労働党)というのは、政府からの権限委譲(devolution)が進んだ時代。
これまでご紹介してきた、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの議会は全部この首相の時代
に設立されたものですし、2000年にロンドン市長のポジションを作ったのも、その一環です。
さらに地方都市にも分権を進めていくトレンドが生まれる中、保守党のキャメロン政権に変わった後、
ある「住民投票」が実施されたのです。

続きは次回に。

■property price(不動産価格)、rent(家賃)
■actual demand(実需)、speculation(投機)
■mayor(市長)、directly-elected mayor(直接選挙で選ぶ市長)


P9280034

※ガイドブックにもよく載っている「ロンドン市庁舎」(London City Hall)。
 モダンアートのような建物がテムズ川のほとりに建っています。手前は謎のオブジェ。

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