Kind Regards。

英国ネタをこつこつ載せてまいります。

2014年10月

前回、前々回とイギリスの所得税に関するご紹介をしたのですが、
ちょっと自分が誤解をしていたことがわかり、この記事で修正をさせて頂ければと思います。
(親切にメッセージを下さった方がいて、そのおかげで気付くことができました。この場を借りて、お礼と
 おわびを申し上げます。)


何かというと、日本とイギリスとでは、所得税の計算の仕方が違うということです。


日本の税率は、今の時点で「6段階」だとご紹介しました。(2015年から7段階に)

195万円以下:5%
330万円以下:10%
695万円以下:20%
900万円以下:23%
1,800万円以下:33%
1,800万円超:40%

例えば課税所得が500万円のケースだと、上のテーブルから税率20%(100万円)が課せられる
ことがわかります。


一方、イギリスの税率は3段階。

(※personal allowance差し引きのベース)
    1~31,865ポンド :20%
31,866~150,000ポンド :40%
    150,000ポンド超   :45%

例えば、所得が50,000ポンドのケースを考えてみますと・・・
まずは「personal allowance」の10,000ポンドが控除できるので、課税所得は40,000ポンドになります。
(ちなみに10,000ポンドを差し引けるこのallowanceも、所得が100,000ポンドを超えてくると徐々に減ってくる
仕組み。)

この次が問題で、40,000ポンドを上のテーブルで探すと「40%」のレンジに入るので、「一律40%もかけられる
のか」と思ってしまったのですが、そうではありません。
31,865ポンドまでの所得についてはあくまで20%が適用されて、それを超えた部分(8,135ポンド)については
40%を適用する
という見方をするのです。

これで実際に税額を計算してみると、
①31,865ポンド×20%=6,373ポンド ②8,135ポンド×40%=3,254ポンド  ①+②=9,627ポンド
と、一律40%で計算した税額16,000ポンドを大きく下回ります。
(実質的にはあんまり「セレブな」税率とは言えないですね)


つまりイギリスの税率表は、人を特定のレンジに選り分けるための表ではなく、人の課税所得を税率別に振り
分ける表であるということがわかります。

もちろんこのやり方であっても、中間層にとっては、所得が増えれば増えるほど、40%に絡め取られる部分が
増えますので、日本よりハードであることには変わりないでしょう。

前回の続きです。

もし保守党(Conservative)が2015年の総選挙で勝利し、再び政権をとることになれば、2020年までに
所得税(income tax)をカットするという方針を出しています。

具体的には・・・

①「personal allowance」と言われる、課税されなくて済む最低所得を拡大(10,000ポンド⇒12,500ポンド)②40%の高税率がかけられる所得のレンジを縮小

これをまとめてみると、下のようになります。

◆現在
(0%    10,000ポンド以下 )
20%   10,001~41,865ポンド 
40%  41,866~150,000ポンド 
45%         150,000ポンド超     
※ただし10,000ポンドはallowanceとして控除可能

◆将来
(0%    12,500ポンド以下 )       広がる
20%  12,501~50,000ポンド     広がる
40%  50,001~150,000ポンド    縮まる
45%    150,000ポンド超      
※ただし12,500ポンドはallowanceとして控除可能

上の書き方ではちょっとわかりにくいかもしれませんが、要は今まで20%を払っていた人の一部が0%のレンジ
に入り、今まで40%を払っていた人の一部が20%のレンジに入るということです。(もし実現されれば)

・・・日本人から見れば、これでも十分に高いような気が。。
これが実現しようがしまいが、40%枠に突入するぐらいなら、むしろお給料を減らしてくれた方がマシだという
人は結構いることでしょう。 
 ⇒ これは間違い 「発見と修正 イギリスの所得税(3)」


ただ、このプランは「unfunded tax cut」だという批判も浴びています。
つまり、「税金をカットするのはいいけれど、減った税収の穴埋めはどうするんだ?」という指摘ですね。

この所得減税プランによって減ってしまう政府収入は、年間70~80億ポンド(1.3兆円ほど)。
少しでも財政赤字を減らしていきたい状況の中、結構大きな数字です。

日本のなだらかな「6段階」税率と違って、イギリスの「3段階」はその段差がまるで「崖」のようであり、
特に、最もレンジが広く、人数も多い中間層(middle class)の部分は、ちょっと動かしただけでもそのイン
パクトは大きくなります。
政府にとってみれば、税収が減ってしまう代わりに、ここをいじれば票の獲得にもつながりやすいという
一つのツールのようなものなのでしょう。


日本の場合、法人税(corporation tax)を意地でも下げようとしていますが、異常とも言える財政赤字の中、
せっかく確保している財源を手放す必要があるのですかね?
再三言われているように、アベノミクスで恩恵を受けているのは企業サイド(+資産を持つ個人)ですから
ちょっとはバランスを取ればいいのにと思います。

■tax cut, tax reduction (減税)

本当はもっとイギリスの暮らしとか文化を紹介できるような記事を増やしたいなあと思うのですが、
話の流れということで、もう少しだけニッチ(niche)なネタを続けます。


前回の記事で、国会議員のトピックスに関係して、税金の話が出てきました。

日本では消費税(sales tax、consumption tax)を10%に引き上げるかどうか、決断の時が迫っていますし、
イギリスでも総選挙をにらみつつ、各党がそれぞれのスタンスを打ち出しています。

しかし数ある税金の中でも、私たちの暮らしに一番ダイレクトに効いてくるのが「所得税」(income tax
ではないでしょうか。
この所得税は、収入の高い人ほど多く払うように、所得のレンジによって違う税率が設定されているもの。
いわゆる累進課税というやつで、このコンセプト自体は日本もイギリスも同じです。


今の時点(2014年度)で、日本とイギリスの税率(tax rate)を比べてみましょう。

まず日本では、このレンジは6段階だということがわかります。

①5%  (195万円以下)
②10% (330万円以下)
③20% (695万円以下)
④23% (900万円以下)
⑤33% (1,800万円以下)
⑥40% (1,800万円超)


イギリスの場合はどうでしょうか?

①0% (10,000ポンド以下) ※最低税率は20%だけれど、10,000ポンドまでは控除可能ということ。
②20% (31,865ポンド以下) 
③40% (150,000ポンド以下)
④45% (150,000ポンド超)

つまり、ゼロというのを別にすれば、20%、40%、45%の3パターンの税率しかないわけで、しかも③の
「31,866~150,000ポンド」のレンジがものすごく広いことがわかります。

お金持ちが「45%」を支払うのは別にいいにしても、中間層にいる人たちから一律「40%」を持っていく・・・、
これって結構キツイと思います。40%というと、日本での最高税率ですからね。
よく日本で、「いやー、稼いでるといっても半分ぐらいは税金ですよ!」などと芸能人が言ってたりしますが、
イギリスでは普通のサラリーマンたちがこれに近い感覚を味わっているということになります。

一国の経済規模に対する税収(tax revenue)のポーションは、イギリスの方が日本よりも若干高く、これは
おそらくこの所得税の影響が大きいのでしょう。

日本もイギリスも国の収支は赤字ですが、日本の方が重症であり、増税トレンドは避けられません。
個人的には、日本の消費税が8%に上がってからというもの、「もったいないかな・・・」「今あるもので何とか
しよう」などと思うことが増えて、買い物にブレーキがかかるようになりました。10%に上がったら、なおさら
そうなるでしょう。

それでも消費税というのは、その名のとおり、私たちがお金を「使う部分」に対してかかってくる税金であり、
お給料からダイレクトに掴み取っていく所得税を引き上げられるよりは、まだマシだということです。
これに関しては日本のマイルドさが国民へのメリットになっている感じですかね。

■income tax(所得税)
■taxable income(課税所得)

イギリスと日本の国会議員の収入をざっと比べてみましょう。

2014年度のイギリスの議員のお給料(salary)は、年間67,060ポンド
円に直すと、大体1千万円ぐらいでしょうか。

これに加えて、交通費、滞在費、スタッフの人件費など、政治活動で実際に使用したものについては、
経費(expense)として請求可能。
ただし中身は、前回ご紹介した「IPSA」という独立機関にチェックされて、ウェブ上で公開されます。
※「IPSA」についてはこちら⇒ 経費スキャンダル -again and again-


一方日本を見てみますと・・・。

◆基本給として月額129万4千円
◆「期末手当」という名のボーナスが500~600万円程度

合わせて年収は大体2千万円といったところでしょうか。
この時点で既にイギリスの議員の2倍もらっています。

さらに、「文書通信交通滞在費」という名目で、月額100万円の支給。よって年間1,200万円。
(ネーミングもすごいですけど、「100」というのが何かこう・・・、いかにもな感じですね。)

名前のとおり、この中から普段の活動費を使っていくわけですが、もし余ったとしても課税されないので、
使わなければまるまる手元に残せることになります。
そして、どれだけ純粋に使われて、どれだけ議員の財布に残ったのか、私たちが知ることはできません。

また、月額100万円を受け取っていながら、なぜか電車や飛行機のチケットなどが別途支給されていますし、
立派な議員宿舎だって用意されているわけですから、ダブルカウント感は否めません。

ちなみにイギリスで公開されている議員別のデータから交通費・滞在費の一人あたり平均を出してみると、
年間2万ポンド(約350万円)の中に十分収まってます。わざわざ数字を持ち出すまでもなく、一人につき年間
1,200万円も要らないでしょうね。

もちろん議員の場合、本来の責任の大きさと、会社員のような終身雇用(lifetime employment)がないこと
を考えれば、多少優遇されるのは仕方ありません。
しかし今の日本のやり方ではあまりにも筋が通らず、ここはイギリス流に、
①使った分だけ請求 ②独立した機関がチェック ③データ公開 を徹底してからの優遇にしてほしいもの
です。


さて、日本で出てくる経済指標もぱっとしない中、それでも消費税増を押し切って決めるかどうかという大事な
局面ですが、どうなるんでしょうね。
賃金は上がらないのに物価は上がり、税金も上がる。それでも「仕方ない」で多くの人が我慢してきている
中でのスキャンダルですから、10%への増税は国民感情的に許せなくなったという部分もあるでしょう。

小渕氏の一件で得をするのは与党を攻撃できる野党ですが、かといって今のザルのようなチェック体制が
イギリスのように生まれ変わるとも思えませんし、むしろ責任追及で国会にムダな時間が生まれて、進める
べき法案が後ろ倒しになり、それが税金の機会ロスになり・・・、結局損をするのは国民です。

■travel expense(交通費)、accommodation expense(滞在費)
■allowance (手当)
■sales tax, consumption tax(消費税)


日本では経産相の辞任(resignation)が近いとニュースになっています。

いつものことながら、なぜこういうトピックスはスキャンダル的に突然出てくるのですかね?
報道では「2010年、11年の収支に差額が・・・」と当たり前のように言っていますが、普通に考えれば、
2010年の記録をまとめた関連書類は11年に所定の監査(audit)を受けるでしょうから、問題があったと
すればそのタイミングで指摘されなければおかしいわけです。

それに、収支報告書で観劇ツアー代として参加者から受け取った代金(収入)と、後援会が負担した支出
に差があるなどというのも、素人が調べてもわかりそうなものであって、専門的でも複雑な話でも何でもあり
ません。「何年もかけて追及し、ついに発見しました!!」という類のものでもないでしょう。
企業の会計監査に比べれば、政治団体の帳簿の監査など何でもないと思うのですが・・・。

小渕氏の責任はもちろん問われるべきなのでしょうが、ベビー用品がどうだとか、ネギがどうだとか、週刊誌
的な個人叩きに向かってしまうならば、フォーカスはどんどん逸れていくような気がします。
今回のようなことは氷山の一角だと思っている人がほとんどでしょうし、国の組織から独立した第三者が
チェックし、データを公開する法を整備しなければ、また同じ問題がどこからか出てきて、政権叩きのツール
にされるだけでしょう。


じゃあイギリスは完全にクリーンなのかというとそうでもなく、確かにこの手の問題はありました。

2009年のこと、更なる情報公開を求める声が高まる中、国会議員が請求(claim)した経費の詳細もきちんと
開示すべしということになり、その準備が進められていました。
ところがこの情報が正式公開される前に新聞社に流れてしまい、あらいざらいの情報が国民の目に晒される
ことに・・・。
調査(investigation)ではかなり細かな部分まで追及を受け、過大請求が明るみに出る度に世論の怒りは
膨れ上がり、閣僚も辞職するという一大スキャンダルに発展しました。一部の議員は実刑判決も受けていた
はずです。

注目したいのは、このスキャンダルの後、「IPSA」(Independent Parliamentry Standards Authority)という
独立機関がつくられた点で、ここが議員の使った経費データの管理と公開をするようになりました。

オンラインで情報公開していますから、誰でも簡単にアクセスできます。
プルダウンから検索する年度を選び、選挙区(constituency)や議員(MP)の名前を選ぶと、誰がどの経費を
いくら使ったのかハッキリと出てきます。さらにトータル金額をクリックすると、件別のディテールが現れて、
例えば交通費であれば、何月何日、どこからどこまで移動したのかまで確認できるようになっているのです。

「ルールや透明性はまだまだだ」という声もあるものの、日本に比べればずっとクリアだと思いますし、少なく
ともフェアな方向に持っていこうという意志を感じます。

人間のやることですから、イギリスも日本も似たようなリスクは抱えているもの。しかし、ひとたび重大な問題
が起きた時に、そこからのリカバリーは迅速で、しかも徹底しています。これは日本との決定的な違いでしょう。


■expense (経費)、expenses scandal(経費スキャンダル)
■tip of the iceburg (氷山の一角)

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