前回の続きです。

その住民投票というのは「mayoral referendum」。
カタカナ読みするなら、メイヨラル・レファレンダム。

これは何かというと、
「自分たちの街で、"直接選挙で選ぶ市長"(directly elected mayor)が欲しいかどうかを問う住民投票」。

なんかややこしいですが、要は、新しく「市長制」を導入したいかを住民に問うわけです。
市議会とは別に、強い行政権限を持った市長を、市民が直接選ぶことで自分たちの声がより反映されやす
くなりますし、中央政府とのパイプができれば地方の発言力はアップします。少なくとも理屈的には。

前回書いたとおり、権限委譲(devolution)の大きなトレンドは、労働党のブレア政権が作り出したもの。
保守党(当時は野党)を率いていたキャメロンも、あえてこのトレンドに反対はせず、
「自分たちが政権を取り返した暁には、ちゃんと"mayoral referendum" を実施することを約束しましょう」と
公約し、2010年の総選挙に臨んだのです。

晴れて首相となったキャメロンは約束どおり、この住民投票を大都市で実施するように指示。
さらに、もしも各都市が「Yes」にvoteし、市長制度を受け入れるならば、政府が握っている権限や財源を
移していくとも発言していました。
つまり、市長という独立した責任者を新たに置いて、市のガバナンスを今よりも強化するのであれば、
今より大きい裁量を与えてあげてもいいよ、
という理屈です。
悪い話ではないと思いますよね。


気になる投票結果はというと・・・・・

ほとんどの都市で「No」。

「独裁者になるかもしれない」「官僚的になる」「コストがかかる」などと理由が上がってましたが、元々
イギリス人には変化を嫌う保守的なところがありますので、サプライズというわけでもありません。
投票率(turnout)も20~30%と大したことはなかったですから、「どうせ同じだろう」という無関心もあった
のでしょう。

よって、イングランドは都市によって市長がいたり、いなかったりします。
あの香川選手のいたマンUの町、マンチェスター(Manchester)。ここは投票で否決。
ビートルズや「かみつきスアレス」(今はバルセロナに移籍)で有名な?リバプール(Liverpool)。
ここは例外的に住民投票をスキップして、すぐに市長を置く手続きをとりました。


スコットランド自治権拡大の話から、ちょっとした飛び火が今イギリスの政治に起こっているのは
以前にもご紹介したとおりです。⇒ イギリスの政治のしくみ(6) 「スコットランド議会」

イングランドのMPたちが不満を持ち始めて、「English votes for English laws」を叫び始めたか
と思えば、ロンドンをはじめとした都市の議会が、「自分たちで集めた税金は、自分たちでもっと自由
に使いたい!」と言ってみたり。

詳しくはまた別の記事で書ければと思うのですが、イギリスという国は、ロンドンに人もお金も集中
しすぎています。確かにロンドンで徴収された税金の大部分が、まずUK政府のサイフに入り、そこから
使い道が決められて配分されていくので、ロンドン市長として主張したくなる気持ちはわかるような気が
します。
ただし、2年前に住民投票(referendum)という形でめぐってきたチャンスを自ら否決したような都市
などは、今回あまり声を大にして権利の主張ばかりできないんじゃないでしょうか。


日本を振り返ってみても、東京から地方への税収配分は増えている一方で、政府から東京&地方へ
の財源移譲は特に進めていません。
イギリスも、財政赤字を絞りつつ、同時に経済成長も実現するという微妙な舵取りが求められる状況
は日本と同じですから、選挙を意識した調整はあり得るにしても、気前よくtax powerを地方に渡すわけ
にはいかないでしょう。
地方分権の流れに反すると言う人もいますが、今はタイミングが悪い気がします。

■pledge(公約、公約する)、manifesto(マニフェスト)