Kind Regards。

英国ネタをこつこつ載せてまいります。

スコットランドだけが自治の権利を持っているというわけではありません。
あまり話題には上がりませんが、連合王国(UK)の他のメンバーである、ウェールズ(Wales)、
北アイルランド(Northern Ireland)という国にも、一応似たようなシステムがあります。

ウェールズは「Welsh Assembly」(ウェルシュ・アセンブリー)という議会を、
北アイルランドは「Northern Ireland Assembly」という議会をそれぞれ持っていて、
どちらもスコットランドに比べるとパワーは劣るものの、一定の裁量が与えられているのです。
※「Assembly」というのは「集合」の意味。「Parliament」よりレベルが一つ下という感じですかね。


具体的に例を挙げた方がわかりやすいでしょう。

2010年頃だったでしょうか。
ちょうど欧州で財政危機の嵐が吹き荒れていて、どの国も財布を引き締める方向に動かざるを
得ませんでした。
イギリスも例外ではなく、国の経費削減の一環として、大学の授業料(tuition fee)を引き上げる
べきじゃないか、という提案がウェストミンスターの国会に出されたのです。

日本と違って、イギリスでは国立大学がほとんど。
「これまでは授業料を低く抑えて、足りない部分を税金で賄ってきたけども、今後は学生サイドに
負担させますよ」という提案であり、賛成多数で可決されました。
(この時は反対する学生がデモを起こし、ロンドンでも警官と衝突。結構な数の逮捕者がでましたね)

法律が変わったということで、それまで年間約3,300ポンド(約60万円)までに抑えられていた授業
料が、2012年の9月より、上限9,000ポンド(約160万円)に引き上げられました。

ポイントは、これはあくまで「イングランド」の対応だというところです。
連合王国の他のメンバーのリアクションをラフにまとめると、以下のとおり。

◆ウェールズ:上限は一応9,000ポンドに引き上げるが、負担が増えないよう、ウェールズ出身の
         学生には補助支給。
◆北アイルランド:インフレ分は負担させるが、大体3,500ポンドに上限を抑える。
◆スコットランド:引き続き無償。ただし、スコットランドおよびEUエリア以外からやってきた学生は
          有償で、上限は9,000ポンド。

と、それぞれで対応がマチマチ。
スコットランドは「授業料タダ」を貫いていますよね。
ウェストミンスターというイギリスの国会で決まった物事でありながら、教育に関してはある程度の
自治が認められている「devolved matters」の一つですから、それぞれのメンバーが微妙に違う
結論に着地していることがわかります。

まさに「devolution」(権限委譲)を実感できる、身近な良い例だと思いますね。

■limit, cap(上限)
■subsidise(補助金を払う、※アメリカでは subsidize)、subsidy(補助金)




このあたりで、スコットランドのお話とつながってきます。

「スコットランド独立投票シリーズ」の(4) でもご紹介しましたが・・・、

スコットランドが連合王国(UK)に加わったのは、1707年のこと。
力関係から見ても「吸収された」といった方が正しく、それまでのイングランドとの戦いの歴史
から想像できるように、この結婚は不本意なものでした。

それでも粘り強く自治を求めていく中、1997年に住民投票が行われ、ついに「スコットランド議会」
Scottish parliament)の設立が認められたのです。
外交、防衛、経済など、国にとっての重要アイテムは、引き続きウェストミンスターがコントロール
するものの、教育や環境など一部のアイテムについては、自分たちの議会で、自分たちの意思
決定ができるようになりました。

そして2014年、今回大きな話題となった独立投票。
最終的に否決されはしましたが、投票日を前にして、ウェストミンスター側から、「もしUKに留まる
ならば、あなたたちの自治権をさらに拡大しましょう」と約束されており、スコットランドにとっては
全く悪い話ではありません。

しかし、これを気にし始めたのがイングランドの議員(MP)たち。
ウェストミンスター議会 650人のMPのうち、スコットランドの選挙区から選ばれているMPは現在
59人います。(約9%)
彼らスコットランド出身のMPは、イングランドの物事にYesやNoを言える(国会での議決投票を
通じて)のに、イングランド出身のMPは、スコットランドが自治権を獲得した物事(devolved
matters
)に対して口を出せません。

ということで、イングランドのMPたちは、「不公平だ。イングランドのことだって、イングランド自身が
決めるべきだ」と不満を募らせているのです。

彼らの主張を指して、最近ニュースにもよく出てくるフレーズが
English votes for English laws」(イングランドの法にはイングランドの議決を)。

キャメロン首相も内輪揉めの調停をやっている場合ではないでしょうが、5月に控える選挙を
考えると、全く無視するわけにもいきません。

IMG_0024

※手持ちにスコットランド議会の写真がなかったので、エジンバラ市街の風景でお茶を濁します・・。
 観光するならオススメの場所の一つで、歴史ある建物の合間から、視界に海が開けてくるという
 美しい街です。

■foreign affairs(外交)、defence(防衛)

そういえば9月23日、日本は「秋分の日」でお休みでした。
昼と夜の時間が同じになることを英語で「equinox」というらしく、秋分の日は「autumn
equinox」、春分の日なら「spring equinox」となります。
1年前も誰かに聞いた気がしますが、なかなか覚えられません・・・。

イギリスはとにかく祝日(national holiday)が少なく、なぜ日本では「海の日」とか「山の日」
とか「敬老の日」などがお休みになるのかと、あらためて聞かれると説明に苦労しますね。


さて、国会の議席で多数派となった党のトップが首相になり、その首相は、自分の右腕、
左腕になって働いてくれる閣僚(Cabinet ministers)たちを指名し、内閣を作り上げます。
最近日本でも安倍内閣改造などと出ていました。まさにああいう人事をやるわけです。

一方、野党サイドが国会の中で与党にモノ申していくのはどこの国でも同じですが、イギリス
ではこれをもっと組織的にやります。
具体的に言うと、野党が「影の内閣」(Shadow Cabinet)というものを作るのです。

「影の・・・」と言うと、なんか地下で密談を交わし、暗躍する人たちのように聞こえますが、
そうではありません。これはちゃんとした役職、肩書きであり、メディアに登場する時にも
「Shadow minister ●●MP」のような感じで紹介がされます。

それぞれの分野を専門に見れる人間を立てて、与党が作り上げた内閣に対抗させる形
をとることで、より中身のある議論が可能になりますし、与党から政権を取り返した暁には、
既に「影で」組閣したメンバーがそのまま就任すればよいので、流れを損ないません。
そういう意味ではまあまあ合理的なシステムと言えるでしょう。

テレビで観たことがある方も多いと思いますが、イギリスの国会中継を見ると、やたら狭い
ところに人がひしめきあっていて、こっちまで息苦しくなってきます。

国会で、与野党双方の閣僚たちは前の方に座っているので、「frontbencher」(フロント
ベンチャー)。
また、その他大勢のMPは後ろの方に座っているので、「backbencher」(バックベンチャー)
と呼ばれることがあります。

■Cabinet(内閣)、Cabinet minister(閣僚、大臣)

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